パリ95番バス

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スペインの春⑧セビーリャ、そして夜のサグラダ・ファミリア

 セビーリャ(Sevilla)は人口70万人のスペイン第四の都市で、アンダルシアの州都。ロッシーニの「セビリアの理髪師」やビゼーの「カルメン」などオペラの舞台としても知られ、日本では昔から「セビリア」または「セビリヤ」で通るが、近ごろはガイドブックでも「セビーリャ」とスペイン語の発音に近い表記になっている。ところがサッカーのチーム名表記だと「セビージャ」になり、ああややこしなのだが、スペイン語では「ll」の発音がジャに近いためで、料理のパエージャを日本ではパエリアというがごとし、というお話。

それはともかく、朝一番に訪れたのは、スペイン広場。王宮のような建物が霧雨にかすんでいた。

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 広場は1929年のセビリア万博の会場跡で、広場を囲むように弧を描く建物はメーン会場のアンダルシア・パビリオン。イスラム教とキリスト教両方の文化を融合させたアンダルシア特有のムデハル様式を取り入れているとか。映画「アラビアのロレンス」や「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃」のロケに使われたそうだ。

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橋の欄干のタイルが美しい

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建物下部の壁面には、スペイン各県の歴史的出来事を描写したタイル画がある

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グラナダのものは、アルハンブラ宮殿の鍵を渡す場面

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セビーリャではコロンブスが1492年にアメリカ大陸に到達して500年の1992年にも、万博が開かれ、この時のパビリオンは領事館などに再利用されているとか。太陽の塔しか残っていない大阪万博跡とは時代も違うので、比較しても仕方ないが、またぞろ大阪万博をたくらむ人たちは何を考えているのか。

 

世界遺産のアルカサルへ行く途中、旧ユダヤ人街のサンタ・クルス街を歩く。花を飾った白壁、鉄柵の家が狭い路地に沿って並ぶ。

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ツアーの集団にいつの間にかギターを抱えたおじさんがついてきて、弾き語りの歌で異国情緒を盛り上げてくれる。別れ際にはみんながチップを。

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 途中に画家ムリーリョ(1618~1682)の生家があった。ベラスケスとともにスペインバロックを代表する画家とされる。同じセビーリャ生まれのベラスケスより20歳ほど年下で、彼の援助も受けて、セビーリャにアカデミーを設立したという。マドリードプラド美術館には多くの宗教画が所蔵されている。下は代表作のひとつ。

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「無原罪の御宿り」

https://www.museodelprado.es/en/the-collection

 

ところが、そんな聖母子の宗教画を多数描く一方で、若い時分には、こんな絵も描いていた。

 

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© 2007 Musée du Louvre / Angèle Dequier

タイトルは「乞食の少年」。ぼろ服に汚れた足、室内の床に一人座り、ノミを取っているようだ。スペインの黄金時代の影で、巷では貧窮した人々も多く、セビーリャ時代のベラスケスや、やはり同郷のリベーラもそうした貧しい人々を描くことを好んだらしい。今年はムリーリョの生誕400年。

 ところどころに緑陰の広場がある。

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広場の名前を書いたタイルはアズレージョ

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暮らしてみたくなるような一角

 

世界遺産のアルカサル(王宮)に着く。

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ライオンの門をくぐって中へ。

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9世紀、イスラム・カリフの王宮だったが、1248年にセビーリャがレコンキスタで征服された後、「残酷王」とも「正義王」ともいわれる(どっちやねん)カスティーリャ王国のペドロ1世が、14世紀半ばからムデハル様式で建築した。イスラム趣味の王様で、アルハンブラ宮殿の建設にかかわった職人をグラナダから呼び寄せて、アルハンブラの意匠を取り入れた作りにしたとか。

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奥に見えるのはイスラムの城壁

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セビーリャはコロンブスが近くの港から出航して新大陸を発見後、スペインの大陸間貿易の中心となって栄えた。この絵は聖母マリアがアメリカ大陸への航海を見守る図。

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市役所の記者会見場として今も使われている部屋がある

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「乙女の中庭」。アルハンブラの「アラヤネスの中庭」に似ている

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 「人形の中庭」

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「大使の間」はモザイクや漆喰細工その他技巧を凝らして豪華絢爛

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 その天井はヒマラヤ杉の精緻な木組細工。宇宙を表しているともいわれる

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階段にもアズレージョのタイル

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庭園の噴水池

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 アラブ風

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南国風

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ヤシの木にどこから来たのか、オウムが止まっていた。このオウムはこの後、飛行機でバルセロナに向かうときに再び登場することになる

アルカサルを出た後は、しばし自由散策。目の前の大聖堂とインディアス古文書館、そしてアルカサルの三点セットで世界遺産に指定されている。

大聖堂はバチカンサン・ピエトロ大聖堂、ロンドンのセント・ポール大聖堂に次ぎ世界で三番目の規模とされる。12~13世紀に建てられたモスクを15世紀、カトリックゴシック様式で建て替え、塔など一部にだけイスラム様式が残る。

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「ヒラルダの塔」イスラムミナレットに鐘楼を付けてキリスト教の塔に転化したところは、コルドバのメスキータと同じ

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 コロンブス(スペイン名クリストバル・コロン)の遺体の一部が入った棺があるそうだが、撮影し損ねました

大通りにトラムが走っている。車の姿はなく、歩行者天国でもあった。日曜だからか、いつもそうなのかはわからないが、都市の光景としてなかなかいい。

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 トラムと馬車の遭遇

ロンリー・プラネットという旅行ガイドブック会社が選んだ「2018年に行くべき世界10都市」の一位が、なんとこのセビーリャ。サイトにあるその理由は以下の通り。

Over the past 10 years, Seville has transformed itself. Once a traffic-congested metropolis resting on its historical laurels, Seville has bloomed into a city of bicycles and trams, keen to reinvigorate its artistic past. The metamorphosis hasn’t gone unnoticed. The capital of Andalucía will host the 31st European Film Awards in 2018, and showcases its good looks in the TV fantasy drama Game of Thrones. Adding colour to an ongoing artistic renaissance, Seville is in the midst of celebrating the 400th anniversary of homegrown Baroque painter Bartolomé Esteban Murillo, with half a dozen one-of-a-kind expositions continuing into 2018.

 
 

ちなみに2位以下はデトロイト、キャンベラ、ハンブルク、高雄…。 

 

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大聖堂のそばをアウトレットの広告を付けたトラムが通る

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街中の広場でなにやらイベントが

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闘牛が盛んな土地柄、闘牛士を描いたポスターのような絵のようなものが売られている

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路上ミュージシャンの姿も

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このカットは、雑誌「クレアトラベラー」のスペイン特集の表紙とほぼ同じアングルから撮影したものです

 

セビーリャから最終目的地のバルセロナまでは空路。昼食は各自でということだったので、通りにあるカフェでパンをテイクアウトし、空港で食べることにした。

店に入り、「オラ」と声をかけて注文する。フランスならボンジュール、USAならハロー。「オラ、オラ」は日本語的には、けんか腰な気もするが、最近は「おらおらでひとりいぐも」という芥川賞の小説もあるし、とか、いろんなことを連想させるご挨拶言葉。

ついでに書くと、今回はツアーだったので、スペイン語を使う機会も少なく、しかしせっかくだからできるだけ使おうした結果、オラ以外に、ブエノス・ディアス(おはようございます)、グラシアス(おおきに)、アディオス(さいなら)、ポル・ファボール(プリーズ)、セルベッサ(ビール)、ヴィーノ(ワイン)、ラ・クエンタ(お勘定)、ウノ(ひとつ)、ドス(ふたつ)、トレス(みっつ)、ムイ・ビエン(極うま)でした。基本日常会話三歳児用ですね(三歳児は、「勘定」なんて言葉いらないか)

話をカフェに戻すと、パンが安い。ドーナッツ2個とアップルパイ2個を量り売りで2.5€。スペインは全体に食べ物、飲み物が安い。

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セビーリャ空港からLCCに乗る。

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座席にあった機内誌を開くと、「La historia que escribes tu」という余白のあるページがあった。あなたが物語を書いてね、ということのようだ。

英語で、「Today Ilost my parrot.He flew away into the cloud and I haven't seen him since.」(今日、私のオウムがいなくなりました。雲の中へ飛んで行ったのです。以来、姿を見ていません)との一文があり、アルカサルで見たオウムを思い出し、「1か月後にアルカサルで見つけた」と続けてあげた。英語的に変かもしれないが、ご容赦を。

バルセロナ空港からバスに乗り、市街地から少し離れたホテルへ。夕食をホテルでとったあと、午後9時ごろから、夜のサグラダ・ファミリアに行くことにした。旅トモになったWさん夫妻に、Sさん夫妻、東京の建築設計事務所のI社長と建築士のOさん、フラメンコのIさん母娘と計10人が3台のタクシーに分乗して乗り付けた。

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正面の世界遺産「生誕のファサード」。闇に浮かぶ教会の姿は、宇宙から降り立った怪物のようにも見える。

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前の公園の池に映る逆さサグラダ・ファミリア

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地上と池の両方で。

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中に照明があるのか、ステンドグラスが透けて見える。

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「生誕のファサード」の反対側にある「受難のファサード」。

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違う角度から見ると、SF映画やアニメに出てくる要塞のようにも。

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建築設計事務所のお二人は、このツアー最大の目的がサグラダ・ファミリアで、いろんな資料をこの時も抱え持ってきて解説してくださった。同行できて幸運だった。

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ということで、ナイトツアーに大満足した一行。翌日は見学本番。