パリ95番バス

映画と本とアートと遊歩

パリ、ジュテーム(Paris, je t'aime)(2006)

 

 18編のうち仏人監督は4編だけで、あとは米、英、独、スペイン、カナダ、ブラジル、日本、豪、南ア、メキシコの監督というオムニバス映画。パリ20区のうち18区(あとの2区も制作され、DVDの特典には入ってるらしい)での「街角の小さな恋の物語」だが、1話約5分の短編のため、え、これでおしまい?という尻切れトンボな話もある。その断片の集積がパリだよと言われればそうかもしれないのだけれど、つい物語とかオチを求めてしまう者にとっては散らかりかねない印象となる。それを最後のアレクサンダー・ペイン(米)がコミカルに締めくくって、気持ちよくエンディングに導いてくれた。

 このブログでもカテゴリー名で使わせてもらっている映画「パリところどころ」(1965)は、ゴダールロメール、シャブロルらヌーヴェルヴァーグの監督6人が6つの地区を舞台に、エスプリを効かせてパリジャン、パリジェンヌの生態を1話15分ほどの話に仕立てた。それから41年後のオムニバスでは、外国人監督から見たパリ、移民がいて、宗教も違えば格差もあるパリが一部ながら切り取られている。

 オムニバスだと、「どれが、よかった?」とか言うのが世の習わしなので、それに従って5話選ぶと以下のようになる。順位はなし。

 

 18話 14区モンパルナス 

 米国人の中年女性が一人で初めてのパリ旅行に来る。「美術館や通りは気にいった。食事は期待していたほどではなかった」。勉強したフランス語でおすすめのレストランを尋ねるが、英語でガイドされる。同じ経験をした者として笑ってしまう。街を歩き、レストランで食事をし、有名人の眠る墓地を訪れる。独りぼっちのパリで人生を見つめ直しながら、パリを愛している自分と、パリに愛されている自分を感じる。「サイドウェイ」でアカデミー脚色賞を取ったアレクサンダー・ペインの温かいまなざしが心に残る。

 16話 10区フォブール・サン・ドニ

 「レオン」のナタリー・ポートマンの盲目の男性との恋。トリックもあって時間が凝縮されたような作品。監督は「ヘヴン」のトム・ティクヴァ(独) 

 9話 7区エッフェル塔

 ピエロの夫婦と子供の物語。エッフェル塔とピエロの取り合わせがパリっぽく、一幕のパントマイム劇を見ているようで楽しい。監督は「ベルヴィル・ランデヴー」などのシルヴァン・ショメ。これはさすがにフランス人監督ならでは、でした。 

7話 12区バスティーユ

 愛人ができて、妻に別れ話を切り出そうとした夫が、知らされたことは…。他の話に比べ、起承転結がしっかりした物語。監督は「死ぬまでにしたい10のこと」のイサベル・コイシェ(スペイン) 

10話 17区モンソー公園

 通りを歩きながら、ニック・ノルティが娘リュディヴィーヌ・サニエから相談を受ける。ワンカットで撮られた一編で、最後にオチがある。映画「48時間」の野獣のようなノルティの好好爺の一面を見ることができる。片や典型的アメリカ男優、片や典型的フランス女優がなぜ父娘役なのかは不明だが。監督は「ゼログラビティ」のアルフォンソ・キュアロン(メキシコ)。

 

 このほか監督陣にはガス・ヴァン・サント(米)、コーエン兄弟(米)(出演はあのスティーヴ・ブシェミ)、オリヴィエ・アサヤス(仏)(「夏時間の庭」)、日本の諏訪敦彦(出演はジュリエット・ビノシュ)ら。そして、ジーナ・ローランズとベン・ギャザラというジョン・カサヴェテス映画のコンビが演じた、別れる夫婦の最後の夜のお話とか、芸達者な俳優も出ていて、改めて観ながら、書きながら、5つには収まらない面白い作品がいろいろある、ということに気づいた。