パリ95番バス

映画と本とアートと遊歩

カフェであった不思議なこと

 

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 パリのカフェには店ごとにしきたりがあるようだ。知らないと少し困ったことになる。 

今回は「カフェ・ド・フロール」のほか、モンパルナスの「ラ・ロトンド」、シャンゼリゼ通りと、どうしても場所を思い出せない一か所の計4店に入った。

 モンパルナスは20世紀初頭、エコール・ド・パリの芸術家が集い、そのたまり場だったカフェがいまも残っている、とガイドブックに書かれている。ピカソ岡本太郎が通ったとされる「ル・ドーム」、モジリアーニ、藤田嗣治らのお気に入りだった「ラ・ロトンド」、ヘミングウェイの指定席があった「ル・セレクト」、そしてみんな行っていたらしい「ラ・クーポール」。4店がモンパルナス大通りをはさんで集まっている。 

モジリアーニの呪い

今回初めて「ラ・ロトンド」へ。昼をだいぶ過ぎていて案内されたのが店の中。赤で統一された店内にはあちこちにモジリアーニの肖像、裸婦画。酒代の代わりにモジリアーニが置いていったものを、その後値打ち品になったので掛けている、てなわけはないと思うが、本物か偽物か聞きそびれた。カフェを一杯、のつもりで入ったのだが、ギャルソンの様子からして、何か食べなければならないと察した。

 以前、向かいのル・ドームにやはり午後入って、カフェなら外、食べるなら中と言われ、中を観たかったので食べることを選択したら、結構高くついたのを思い出し、ここのしきたりもル・ドームと同じかと、はたと気づいた(気づくのが遅い)。

 そうこうするうちに、バゲットのかごとエシュレバター、オリーブの実がドンとテーブルに置かれ、ギャルソンは「何食べるの」という感じで注文を待っている。仕方ないので、グラスワイン2つと、オニオングラタンスープ、フルーツ盛り合わせを注文した。「フルーツはデザートだよ」「構わない」。変な客と思ったに違いないが、ギャルソンは少し若く、日本人の変な客には十分な免疫ができていなかった可能性もある。計33€、満足した(バゲットだけでも満腹になるのだから)。

 外に出て記念撮影、ここで奇妙なことが起こる。私と妻それぞれをデジカメで撮影したのだが、あとでよく見ると、顔はじめ細部が省略された米国画家ホッパーの少しポップな絵みたいな写真になっていた。

 その後撮影したコマは普通の写真になっていて、この2枚だけが絵画風。確かにカメラには操作すれば、絵画風に撮れる機能はあるのだが、操作した覚えはないし、ためしにその機能で撮っても、この2枚のような感じにはとてもならない。モジリアーニの呪い!

 

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謎の美女

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「カフェ・ド・フロール」は「ブラッスリー・リップ」で夕食をした最後の夜に寄った。そこへなんと女優のニコール・キッドマンにそっくりな美女が。声をかけようか、一緒に写真をと思ったが、勇気が出ない。他の女性客に話しかけられ、スマホで写真を撮られているので、本物かもしれない。

 肩の露出したドレスにベージュのトレンチコートで、そこらの観光客とはファッションが違う。ロケの合間にカフェか、などと妄想する。いや少し眼の色が違うとも思い、本物なら一人で来るか?周りはもっと騒ぐのでは?

 心を残して店を出て、向かいのホテルの部屋に戻り、窓から見ると、彼女が出てきた。部屋を飛び出し、ブラッスリー・リップ前の路上でギャルソンと親しげに話していた彼女に思い切って声をかけた。

ニコール・キッドマンに似てますね。

相手は微笑むばかり。

やはり違うのか。

写真撮ってもいいかと聞いたら、にっこりして妻とツーショットに収まってくれた。

そして夜のサン・ジェルマン・デ・プレに消えて行った。

これも一夜の夢のような。

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 二つのカフェでの出来事、シュルレアリスムの総帥、アンドレ・ブルトンなら、「日常の中に驚異が潜んでいる。不思議でもなんでもない」と言うだろうか。