パリ95番バス

映画と本とアートと遊歩

スペインの春③「ゲルニカ」

f:id:LOUVRE:20180510180737j:plain 

プラド美術館から国立ソフィア王妃芸術センターへ。

ソフィアも与えられた時間は40分。1992年開設の現代美術館で、目玉はピカソ(1881~1973)の「ゲルニカ」だ。

f:id:LOUVRE:20180510180426j:plain

http://www.museoreinasofia.es/en/collection

内戦時の1937年4月、反共和国政府のフランコ軍を支援するヒトラー・ドイツの空軍がバスク地方ゲルニカを無差別爆撃、壊滅的な被害を与えた。この年のパリ万博に共和国政府からスペイン館の壁画を依頼されていたパリ在住のピカソが、この空爆をテーマに描いた阿鼻叫喚の図。

やや小ぶりの部屋に展示された絵はこの1点だけ。

縦3・5㍍、横7・8㍍。

本やテレビで数えきれないほど見ているのだが、絵の前に立つと、描かれた人や動物の叫び声が聞こえてきそうなのが不思議だ。ピカソの気?

ほかの絵の撮影は基本OKだが、「ゲルニカ」は禁止。撮影で大混雑するのを避けるため?それともスペイン人の絵画で最も有名な絵画の一つを記憶に刷り込むほどじっくり見て欲しいから?

流転の絵画とも呼ばれる。万博後、作品は欧州各地を巡回、内戦にフランコ軍が勝利し、独裁政権が誕生すると、ピカソは「スペインに自由が戻るまでは」と、ニューヨーク近代美術館に作品を寄託した。戦後、「反戦画」のイメージが強まる中で、ベトナム戦争時には米国が持っている権利はないとする声もあり、スペイン政府も返還を求めるなど、帰趨を巡ってすったもんだの挙句、ピカソフランコも死んだ後、ピカソ生誕100年の1981年にスペインに戻った。プラド美術館別館に展示された際、危害を恐れて防弾ガラス張りの展示だったとか。その後開館したソフィアに移された。

今も近付き過ぎると警報が鳴る仕組みで、部屋にいるとき、1度鳴った。

絵画ができるまでを追った写真も部屋には展示されている。モノクロの「ゲルニカ」は40日間で仕上げるため、乾くのに時間がかかる油絵具ではなく、ペンキを使ったという。

スペイン内戦については、ヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」、ジョージ・オーウェルの「カタロニア讃歌」、ロバート・キャパを有名にした写真で、本物かやらせかと物議を醸した末、沢木耕太郎さんが「やらせ」と結論付けた「崩れ落ちる兵士」とか、第二次世界大戦の前哨戦として、作家、写真家、芸術家が様々にからんだが、これ以上の言及は手に余る。

 

一つ向こうの部屋に映像が流れているのが見えた。よくみると、スペイン出身の映画監督ルイス・ブニュエルが、メキシコの貧民街の少年たちを描いた救いのない映画「忘れられた人々」のようだ。そうかブニュエルコーナーもあるのか。

スペインの映画監督と言えば、「ミツバチのささやき」のビクトル・エリセとか、「ボルベール(帰郷)」「オール・アバウト・マイ・マザー」のペドロ・アルモドバルとか、「海を飛ぶ夢」のアレハンドロ・アメナーバルとかがいるけれど、やはりブニュエルは別格のようだ。

パリに出て、フランスやメキシコで多くの映画を撮り、スペインでは数えるほどしか制作していない。無神論者でカトリックキリスト教を茶化したような映画も作っていて、スペインで上映禁止になった作品もある超ひねくれオヤジ。教会の権威、欺瞞を笑いながら、宗教的テーマ、イメージにこだわり続けたところは、ただの無神論者というわけでもないようだが。

f:id:LOUVRE:20180510181235j:plain

ソフィアの建物は元は病院だった

そのブニュエルパリで一緒にシュルレアリスムの短編映画「アンダルシアの犬」を作ったサルバドール・ダリ(1904~1989)の部屋へ行く。残された時間はわずかで、ダリの作品をざっと見て、写真を撮れるものはざっと撮って…。

 

f:id:LOUVRE:20180510180814j:plain

「偉大なる自慰者」

 

f:id:LOUVRE:20180510180846j:plain

「子供と女への皇帝記念碑」

 

f:id:LOUVRE:20180510180535j:plain

ヒトラーの謎」 皿にヒトラーの小さな写真がある。パリでシュルレアリストのグループに入っていたダリは、スペイン内戦で親フランコヒトラーと見られ、グループを除名されるが、ドイツのパリ進攻で、米国に亡命する。

http://www.museoreinasofia.es/en/collection

 

f:id:LOUVRE:20180510180614j:plain

「窓辺の少女(ダリの妹)」

http://www.museoreinasofia.es/en/collection

 

f:id:LOUVRE:20180510180642j:plain

「ラファエルの聖女の最大速度」

http://www.museoreinasofia.es/en/collection

 

f:id:LOUVRE:20180510181306j:plain

「キュビストの自画像」

http://www.museoreinasofia.es/en/collection

自称天才、誰にも真似できない空前節後の絵をみると、なんとかと紙一重の天才と認めざるを得ないのがダリ。スキャンダル好きのトンデモ画家の顔の反面、勉強熱心、研究熱心のとても真面目な人間らしいことは、本人の著作からもうかがえる。そのスーパーリアリズムは、スペイン16世紀の超細密静物画ボデゴンの系譜をひくともいえる。

ミロその他も見たかったが、時間切れ。

両美術館を駆け足で巡り、スペインは美術界で1世紀ごとに特異な天才を生んだ国であるということは理解できました。

f:id:LOUVRE:20180510180959j:plain

ソフィア前の広場にあるホワイトアスパラガスのようなモニュメント作品

f:id:LOUVRE:20180510181817j:plain

広場から望むスペイン鉄道アトーチャ駅。かまぼこ型駅舎が特徴的。

ソフィアを後にして、市内のレストランで昼食タイム。

他のツアー参加者と食事しながら、話をして、距離が縮まる時。われら夫婦と同じテーブルとなった東京のSさん夫妻と会話がはずみ、以後、旅トモに。

f:id:LOUVRE:20180512114732j:plain

なかなか雰囲気のある店

f:id:LOUVRE:20180512114826j:plain

店名はデュデューア?

f:id:LOUVRE:20180512115304j:plain

メーンは牛肉とジャガイモ。素朴な味だがおいしかった

 

二つの美術館以外はスペイン広場、あとはバス車窓からという、マドリード市民には申し訳ないようなあわただしい観光を終え、バスで古都トレドへ向った。

以下は申し訳程度のマドリードの車窓からの風景。

f:id:LOUVRE:20180510181113j:plain

f:id:LOUVRE:20180510181342j:plain

f:id:LOUVRE:20180510181456j:plain

f:id:LOUVRE:20180510181533j:plain

f:id:LOUVRE:20180510181415j:plain

f:id:LOUVRE:20180510181617j:plain