パリ95番バス

映画と本とアートと遊歩

ニューヨークの秋(3日目) 超広角メトロポリタンwith セントラルパーク

 

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 (セントラル・パークを窓越しに望むメトロポリタン・ミュージアム)

プレ・マラソン 

朝9時過ぎ、ホテルの回転ドアをくぐって六番街に出ると、カラフルなウェアのランナー集団が車道に広がって走っていた。ニューヨーク・シティ・マラソンは明日5日の日曜日のはずだったのに、1日早まった…わけはないわなあ。コースも違うし、沿道の警備もゆるいし、たぶんプレイベントだろうと判断した。(あとで調べると、本番前日にDash to the Finish Line 5Kというゴールをイメージした5キロランのイベントだった)

みなさん摩天楼の谷間をセントラル・パーク方向へ楽しそうに走っている。

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フランスやイタリアの国旗を掲げたグループ、星条旗のコスチュームの男性、幼児を乗せたベビーカーを押しながらという女性もいる。

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今日の予定はセントラル・パークを歩いてメトロポリタン・ミュージアムへ、なので、ランナー集団について行く。突き当りを右折するとザ・プラザ、そして五番街に出て左折し、ランナーは黄葉のパーク内になだれ込んでいく。

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 ニューヨーク・シティ・マラソンを何度も走った作家村上春樹さんの「走ることについて語るときに僕の語ること」という本に、こんな一節がある。

「11月のニューヨークは実に魅力的な街だ。空気は意を決したかのようにきりっと澄み渡り、セントラルパークの樹木は黄金色に染まり始めている。空はあくまで高く、高層ビルのガラスが太陽の光を豪勢に反射させている。ブロックからブロックへと、限りなくどこまでも歩いていけそうな気がする」

パーク経由メトロポリタン 

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 作家が走ることについての本なので、ニューヨークの街の感想はほぼこれだけ。もう少し言及してほしいと思うのは、ないものねだりでしょうか。

ゴールインして戻ってくる人たちはみんな、リンゴ(NYだから?)やミネラルウォーターのペットボトルの入ったビニール袋を手にしている。参加賞か。

メトロポリタンは午前10時開館なので、開館直後に入場すべく、パークのゆるり散策は後回しにして、できるだけ最短距離を進む。高層ビルを背景に秋色のパークの眺めが目に入ってくる。ペセスダの噴水、不思議の国のアリス像を過ぎ、5番街に出て、正面に並ぶ円柱が古代の神殿を思わせる建物にたどり着く。

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すでに入口の外にまで切符を買う人の列ができている。

 入場料は大人$25だが、寄付なので$1でも構わないことになっている。いくらにするか、難題だが、ここもフリースタイル・パスだったので、残念なことに悩む必要がなかった。丹念に見れば3日はかかりそうなところを、2~3時間ですまそうというのだから、何を見るか、優先順位を付けざるをえない。日本語の館内マップをもらい、1階のギリシャ・ローマ美術、アフリカ、南北アメリカ美術の部屋をほぼ素通りして、近現代美術のエリアに直行する。数えるほどしか人はいない。ピカソ、ブラック、シャガール、キリコ、ダリ、ミロ、バルテュス、ホッパー、ポロックと20世紀の画家たちの作品が収められている。

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本家も驚くコレクション 

二階に上がり、19世紀・20世紀前半ヨーロッパ絵画・彫刻のエリアに入って驚いた。ゴッホが「糸杉」「アイリス」をはじめ18点、セザンヌが「リンゴのある静物」「サント・ヴィクトワール山」「トランプをする人々」など21点、モネは湖のさざ波に反射する日の光がこれぞモネという「グルヌイエール」に、「サンタドレスのテラス」「ジヴェルニー近くのセーヌの朝」「四本の木」など、モネの画集には必ず入っている作品が並び、その数30点余り。

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これにルノワールドガ、スーラ、マチスピカソなどなどがごろごろあって、眼を奪われる。印象派後期印象派ならパリのオルセー美術館が総本山と思っていたが、メトロポリタンは恐ろしいところだ。さすがにマネは少なくて、オルセーの面目は保たれた。多くの絵は額にガラスがなく、鑑賞者は室内灯の反射なしに、リアルな画布を目にできる。近づきすぎて、係の人に注意されたが。

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フェルメールからエジプトへ

続いてヨーロッパ絵画1250―1800のエリアへ。フェルメールは5点があるはずだったが、「リュートを持つ女」は展示されてなくて(どこかに貸し出したか)、「信仰の寓意」「水差しを持つ女」「眠る女」「少女」の4点があった。ドラクロアも、ルーベンスももちろんある。

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この辺で、時間も体力も気力も集中力もほぼ尽きたので、昼休憩にカフェでカップケーキなんぞを食べて、日本美術とエジプト美術だけを覗いた。日本美術では狩野山雪の「老梅図」 尾形光琳の「波濤図」「八橋図屏風」を見たいと思っていたが、日本エリアはBamboo=竹の特集をやっていて竹細工や竹林を描いた掛け軸などが展示され、目的の絵にはお目にかかれなかった。出入り口には、赤いガンダムやガラス製のシカといった現代アートがあった。

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エジプト美術はツタンカーメンやミイラの棺、副葬品、スフィンクスなど、お馴染みのものが、これもごろごろあって、本物なのか、レプリカが混じっているのかわからないほどで、鑑賞者もいろいろ触りまくったりして、大丈夫なのでしょうか。

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美術の百科事典 

ザ・メット(The Met)と省略して呼ばれるこのメトロポリタン・ミュージアム(美術館か博物館か)。MoMA(モーマ=ニューヨーク近代美術館)同様、固有名詞を短くするのが、ニューヨーカーというかアメリカ人は好きなようだ。グランド・セントラル・ステーションをグラセンとか。

それはともかく、メットは、1880年に開館し、20世紀に入って機関車製造業を営んでいたロジャースさんが500万ドルを寄付して、本格的なコレクションがスタートした、とガイド本の序文でトマスP・キャンベル館長が書いている。その後、金融王J・P・モルガンや石油王ロックフェラーや個人の美術品収集家が寄贈したり、財閥の基金で購入したりと、民間の資本で今や紀元前8000年から現代に至る300万点を収蔵、「世界一の百科事典的美術館」(同館長)となった。

「来館者は一度の来館でまさに世界中を旅しているかのような体験を味わうことができる」

メトロポリタン美術館の使命はすべての文化圏そして時代における、人類の優れた芸術的偉業を象徴する作品を収集すること」(ガイド序文から)

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 つい比較したくなるパリのルーヴル美術館の開館は1793年と90年ほど先輩で、エジプト美術コレクションでは世界最大級(実は見ていない)、先史時代から19世紀までの美術品をコレクションし、年間入館者数はルーヴルが740万人で、メットの700万人を少し上回る。収蔵品の内容や目指すところ(百科事典的)は似ている気がする。ルーヴルもファッションとか現代アートとか漫画とかにも手を広げているが、メットの方がより現代的というか、エジプトからポップアート現代アート(MoMAがあるので、さすがに展示数は少ないが)まで展示が超広角で、エジプトの遺品さえ、現代アートと錯覚しそうなほど親しみを覚える不思議な感覚。

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あらゆるものが集まってくる街  

こうした欧州本家をしのぐようなコレクションは、財閥の貢献が大きい。そのあたりをニューヨーク在住の画家千住博さんは、こう書いている。

「歴史的に見て、金融の中心が美術の中心となる。ルネッサンス時代のフィレンツェ、ベニス、19世紀末のパリがそうであったように、現在のニューヨークは世界の一大金融センターであると同時に、まさに芸術でも世界の中心なのだ。ニューヨークは人が集まり、情報が集まり、全世界の文化が集まる。金が集まり、コレクションが集まる」(「CREA   Traveller」2015年秋号の「ニューヨーク美術体験」から)

メットだけでなくMoMA、ホイットニー美術館、フリッツコレクションなどなど、狭いマンハッタンに世界有数の美術館が多数ある。アメリカ人が金にあかせて美術品を買いあさったと、いう見方もできるが、個人宅に死蔵されるとか、投機目的というのでなく、美術館で誰もが見られるようにした、ということに意味がある。

 

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「分かり合えない人々が分かり合おうとするコミュニケーションを芸術と言う。生きている喜び、生命の輝きを美という。そして見えないものを見えるようにするのが美術だ。多民族が集い、活力ある都市生活者たちの闊歩する街ニューヨーク。ニューヨークの多様な人々が、お互いに壁を越えて理解し合うためにも、美術というメディアは、この街に大切なのだと思う」(千住さん、同)

公式ホームページで40万点以上の館蔵品を見ることができる点も、IT大国らしいが、観きれなかった部分を含め、もう一度じっくり回りたい美術館だ。

 北に歩くとグッゲンハイム美術館がある。建物が外も中もリボンをくるくる巻いたようなモダンなデザインは、フランク・ロイド・ライトの設計。残念だったのは、チャイナのアート特集をやっていたために、常設展示の作品が1フロアのみと、少なかったこと。メットを見たあとでは、インパクトに欠けるのはやむを得ない。

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パーク夕景  

セントラル・パーク内に戻って、ホテルに向けて歩く。南北4㎞、東西800mの長方形の広大なパークは、19世紀半ば、密集し過ぎた劣悪な都市環境を改善するために計画された。ここからは写真での紹介。

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ブロードウェイミュージカル  

少し歩きすぎて、ホテルで休憩後、ブロードウェイ・ミュージカル「アラジン」を見に出かける。夜8時開演で、ブロードウェイを歩いてすれ違いも大変なタイムズ・スクエアを過ぎ、ニュー・アムステルダム劇場へ向かう。

数ある演目から「アラジン」を選んだのは、英語が比較的易しそうだったこと。日本でネット購入したEチケットを窓口で引き換えて席へ。1階の一番後ろの指定席。舞台も劇場もこじんまりした印象だ。歌って踊って2時間。前方の外国人の人たちから(地元の人かもしれない)、しばしば笑い声。残念ながら、英語がよくわからず、笑いについていけない。歌や踊りがいいことはわかるが、劇を見て感激!とまではいかず。「シカゴ」「オペラ座の怪人」など、映画でも見た大人の作品を選択すべきだったか、とも考えつつ、いずれにせよ英語をそれなりに聞き取れないと、感情移入は無理だよなあと思い直して、ブロードウェイ初体験の夜は暮れた。

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