パリ95番バス

映画と本とアートと遊歩

バスかメトロかタクシーか

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 パリでの移動手段は何が便利か、という問いはあまり意味がない。移動目的、宿泊ホテルの場所によって、それぞれ選択する必要があるから(当たり前だ)。これまで、鉄道、メトロ、バス、タクシーを使い分けてきた。自転車およびレンタカー(恐ろしそうで借りる気がしない)は経験がなく、鉄道は小旅行用だから、20区内はもっぱら3つの交通機関ということになる。 

空港の定額タクシー 

 今回を例にとる。シャルル・ドゴール空港から宿泊ホテル(6区)まではタクシー。2016年春、空港から市内中心部まで55€(セーヌ左岸)の固定料金になったので、随分安心して乗れるようになった。今回も到着が夕方の渋滞時で、パリ市内へ入る幹線道は大混雑、運転手さんは迂回しつつ、モンマルトル墓地経由(このルートが普通なのかどうかはわからない)でほぼ1時間30分かけて到着。スムーズに行けば50分程度だから、固定料金でなければ、もっと高い料金になっていたはず。

 3年前、渋滞に巻き込まれ、迂回路を取ったタクシーにほぼ同じ距離で100€取られたことがあることを思えば、固定料金はぼったくり防止の点でパリ運輸局(てなものがあるかどうか知らないが)の英断だ。

 固定料金のことを知ったのは、昨年7月のパリ行きの時、ネットを見ていて、そのことを書いている人があったからで、知らなかったらぼったくりに懲りてタクシーはやめていたかも知れない。こういう有意義な情報はガイドブックにもっと大きな字で書くとか、パリ好きの人にはメールを送って知らせるとか、宣伝してもらいたい。

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 バックパッカーとか、節約志向の若者ならロワシーバスやRERを使うだろう。ロワシーバスはオペラ座発着なので、以前、セーヌ右岸のホテルを使っていた時には往復に使ったことがあるが、左岸のホテルだと、またそこからタクシーを使う必要があるので、スーツケースを抱えての移動を考えると、多少料金はかかってもタクシーの利用ということになる。空港へ行く場合も同じこと。

 ツアーでパリに2泊程度しかしないころは、市内移動にタクシーを使った。タクシー料金は今でも日本に比べると安いと思うが、10年以上前はもっと安かった気がする。かなり乗っても1500円までという感じだった。ただ、乗り場が限られるので、使い勝手は必ずしもよくない。 

メトロもいいけど 

 その後、パリに1週間滞在といった旅行形態になると、メトロをよく使うようになった。東京並みに路線網が発達し、乗り換え駅を失敗しなければ、早くて便利。1回券1.9€、回数券のカルネ10枚だと14.5€、1回分180円ほどで20区内どこまででも行ける。それに通路でのクラシックやジャズの演奏がパリっぽく、駅のホームも個性があって面白くて、メトロを活用することで、パリを幾分知った気になった。

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 変わったのは、日本人観光客要注意のスリに一度あいかけたことから。車内に入ろうとしたら中の数人が入り口をふさぎ、1人がウエストポーチに手をかけようとした。妻の叫び声で、何も取らず連中は降りて行ったが、やはり観光疲れでボーとした顔をしていたので狙われたのだろうなと思った。危ない、危ない。こういうこともあってメトロには警戒心が強くなった。つまり、安心して乗れないなあ。メトロでしか行けないとか、とにかく早くというとき以外はメトロは敬遠

気味になった。


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バスは楽しい 

 今はバスの利用頻度が高くなった。バスの楽しさは車窓の街の風景を観られること、適当に下車しても1時間30分以内だと乗継できること、メトロと違って階段の乗り降りがなく年配者に優しいこと(だから高齢者の乗客が多い)、犯罪に関して安心感があること(実際のスリなどがどういう状況かはわからないけど)だろうか。バス停が分かりにくいとか、日曜日には多くの路線が運休してしまうとか、渋滞だと時間が読めないとか、短所もむろんあるのだけれど、バス派は揺るがない。

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 きっかけが95番バス(下の写真)。ポルト・ド・ヴァンブからポルト・ド・モンマルトルへパリを南北に縦断し、途中にモンパルナス、サン・ジェルマン・デ・プレ教会、ルーヴル美術館、パレ・ロワイヤル、オペラ座、ギャラリー・ラファイエット、サン・ラザール駅がある観光路線だ。ポルトとはパリ外周部にある城門跡で、つまり95番はパリ市街地の南と北の端を結んでいることになる。サン・ジェルマン・デ・プレにホテルを取ることが多くなって、セーヌ右岸のルーヴル方面の行き帰りに重宝するこのバスがお気に入りとなった。

 メーン路線の一つなので、本数が多く、深夜まで運行し、日曜も休まない働き者だ。乗っている途中でバスのドアが閉まらなくなって、乗客全員降ろされたというトラブルもあったが、すぐ後ろに95番が来ていてなんの支障もなかった。雑誌「CREA(クレア)」2014年3月号の特集「秘密のパリ」で、イラストレーターの米澤よう子さんが「乗っているだけでも楽しい路線」として紹介している。

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 一般的なガイドブックにはメトロの路線と異なり、バス路線はまず掲載されていない。付録でついている地図にもバス停の表示はない。理由は単純に、バス停は路線によって違うし、路線はメトロのようにつながっていないので、地図化しにくいからだろうと推測している。毎回、パリに行く前には、ネットでRATP(パリ市交通公団)のページを開き、目的地に合ったバスの路線とバス停の場所をチェックし、印刷して持っていくのが習わしになった。

 現地でのスケジュール変更はよくあることなので、チェックできていないバス停、路線というものもあって、右往左往することもあるが、スマホのグーグルマップの経路案内機能は、東洋の果ての異邦人にもメトロの何号線か、バスなら何番がいいのか、乗換にかかる時間、歩く距離、すべて教えてくれるので、10年前より格段に移動がしやすくなった。

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 今回の旅行では、63番バスをよく使った。リヨン駅とポルト・ド・ラ・ミュエット(マルモッタン美術館近く)を東西に結ぶ路線で、サン・ジェルマン・デ・プレ(バス停は西行きはサン・シュルピス教会前、東行きは大通り)からオランジュリー美術館やグラン・パレに向かう時、あるいは朝、TGVの出発に間に合うようリヨン駅へ急ぎ足で行った時にとても便利だった。

 むろん95番バスも乗った。サン・ジェルマン・デ・プレ教会前のバス停で、モンパルナス方面から近づいてくるバスを見ると、パリに帰ってきたという気持ちになるのが不思議だ。