パリ95番バス

映画と本とアートと遊歩

パリの散歩道

 北アイルランドのギタリスト、ゲーリー・ムーアの名曲で、ソチ五輪ではフィギュアの羽生結弦選手がショートプログラムで使った曲、ということではなく、パリの朝の散歩は楽しいという話です。

 サン・ジェルマン・デ・プレのホテルで午前7時過ぎに朝食をとったあと、食後の運動と買い物を兼ねて散歩に出る。パリではたいていホテルでしっかりビュッフェ朝食を食べ、昼はカフェで簡単にすますというパターンが多い。クロワッサンとチーズ、ハムがとにかくおいしい。

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 散歩の話だった。20日(土)の目的地は界最古のデパートともいわれる「ボン・マルシェ」。ホテルから歩いて15分ほどの距離で、途中に靴店が軒を連ねるシューズ通りがあり、抜けると交差点の広場にケンタウロス像の現代アート。そこからメーン通りを外れた東側の狭い通りに、有名なブーランジュリー(パン屋さん)「ポワラーヌ」がある。パン屋さんはどこも朝早くから開いていて、しかもショーウインドウで焼き立てのパンが目いっぱい見えるようにしてあるから、朝食でおなか一杯でなければ、即買いですね。 

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食の宝庫、ラ・グラン・エピスリー・ドゥ・パリ

 角、角にあるカフェはどこも不思議なほど朝からにぎわっている。エスプレッソを一杯、ぐいと飲んで出勤という人もいるのだろう。寄り道をし、朝の風景を楽しみながら、高級マンションが並ぶセーヴル・バビロン、そしてボン・マルシェへ。本館は午前10時からだが、別館の食品館、ラ・グラン・エピスリー・ドゥ・パリはなんと午前7時30分開館で、土産物を買うのに朝の時間を有効に使えるという点でも便利だ。品ぞろえはすさまじく、さすが食の都パリ。朝は客もほとんどいないので、ゆっくりと館内散策ができる。マドレーヌ売り場に、あのプルーストの肖像を袋に印刷したマドレーヌが陳列してあったのにはのけぞった。「失われた時を求めて」の最も有名な部分、マドレーヌを食べて失われた時を思い出すという象徴的シーンしか本の中身は知らない人が多いと思う。「文豪プルーストが愛したマドレーヌ」という観光客向けお土産商品なのだろうが、日本でなぞらえると、うーん、梶井基次郎のレモン・・・。

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朝のリュクサンブール公園

 

21日の日曜はデパートもスーパーも休みなので、朝の散歩はリュクサンブール公園へ。ホテルから映画「ダヴィンチ・コード」に登場するサン・シュルピス教会を通ってやはり15分ほどの道のり。5月の緑陰が心地いい。ジョギング、ウォーキング、テニスの人々。日本で早朝に都心の大きな公園を散策したことは数えるほどしかないのだが、似た光景なのだろうか。

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  パリの人はよほど彫像が好きらしい。この公園にもヴェルレーヌショパンドラクロア自由の女神、その他もろもろの彫像(大半は知らない人)に出くわした。公園にも歴史とロマンを持ち込まないと気が済まないフランス人か。もとは宮殿の庭で、建物が美術館(その時はカミーユピサロ展をやっていた)として残り、景観も素晴らしい。まったくのどかな日曜朝の公園なのだけれど、ジョギング、散策をする人の傍らに機関銃を持った女性警官がいるところは、テロの影。

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帰り道、とある店から大きな袋を二つ提げた黒人男性が出てきた。何の店?「あ、ピエール・エルメ」。この界隈にあるとは知っていたが、ばったり遭遇するのが散歩の面白さ。店内に吸い込まれるように入った結果、毎日のように通うことになった話は改めて。 

偶然に出会う街 

1日置いた23日の火曜もボン・マルシェ方面を散策したのだが、帰り、道に迷って出くわしたのが青空市場。テントが延々と続き、見るからに新鮮そうな量り売りの野菜、果物が屋台に並び、鮮魚や花やオリーブや雑貨や服やなんやかや。有名なマルシェ・ド・ラスパイユだった。火曜と金曜が普通の市、日曜はオーガニックの市で、この日が青空市のある曜日に当たっていたということ。短い観光旅行で青空市をわざわざスケジュールに入れることはないと思えば、パリは偶然の出会いが至る所に仕掛けられている街、という気にもなってくる。住めばこんなところで買い物をして、ちょっとまけてもらったりして、パリのおやじ気分になれるのにね。

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 昼の街歩きもいいのだけれど、朝の散歩は独特の面白さがある。そのためには、宿泊エリアが大事だと思う。以前、右岸リヴォリ通りのホテル・ブライトンに宿泊したとき、真向いのチュイルリー公園を朝、散歩した。よく手入れされた庭園と噴水池、それに、少し変わった彫像の数々。ジョギング組はいなかったように思う。リュクサンブールほど木陰がないので、夏の昼間は随分暑く、場所柄、観光客も多いけれど、朝は人もまばらでさわやかだったことを覚えている。