パリ95番バス

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サン・ジェルマン・デ・プレのジャズ

 

 今回のパリ旅行は、サン・ジェルマン・デ・プレでジャズフェスティバルが開かれる5月に日程を組んだ。

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 サン・ジェルマン・デ・プレでジャズといえば、ボリス・ヴィアン。新大統領のマクロンさんと似ていないこともないこの作家に、40年余り前の20歳前後のころ、はまったことがある。「日々の泡」「心臓抜き」といった小説が好きで、サン・ジェルマン・デ・プレという地域のことも当時は詳しく知らず(足を踏み入れたこともなく)、ヴィアンとジャズについては、「日々の泡」のエピグラフで、デューク・エリントンの名前が出てくることを認識しているくらいだった(当時は個人的には、エリントンよりコルトレーンだったし)。トランペッターで米国のプレイヤーとの橋渡しもし、「サン・ジェルマン・デ・プレ入門」との本もあるボリス・ヴィアンについてはまた改めて。

 

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 2001年から毎年開かれているらしいジャズフェス、今年は5月11日から22日までの開催で、事前にプログラムなどをチェックしたが、知っているプレイヤー、シンガーは見当たらなかった。当方が50年代、60年代のジャズをメーンに聞いてきて、時間が止まっている(つまりその後の勉強を怠っている)から、現在のジャズシーンには疎いので仕方がない。 

郵便で届いたチケット

有料プログラムとしては最終演目(22日)のオデオン座でのヒュー・コルツマンを中心とした「Hugh Coltman invites Krystle Warren, Ben l’Oncle Soul & Eric Legnini」なるコンサートを選択した。むろんこのメンバーも不知。チケットのネット購入では、オデオン座のサイトで席を選び、1枚19ユーロ、2枚分をクレジット決済。てっきりeチケットが送信されてくると思ったら、驚いたことに、後日、パリから小粋なデザインのチケット2枚が郵送されてきた。なんというアナログ!感動すら覚えた。

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パリ到着の5月19日(金)夕、サン・ジェルマン・デ・プレのホテルにたどり着く。普段でも街角で中年のバンドが演奏を披露している場所柄、ジャズフェス期間中はどんなことになるのかとの期待もしていたが、週末の割に静か。フェスも終盤だったからか、騒々しい雰囲気はなく、少々肩すかしではあった。土、日曜の昼間には5人ばかりの中年ジャズバンドが、サン・ジェルマン・デ・プレ教会の傍らで演奏をする光景をみることができた(いつもの光景?)。

翌20日の土曜夜は「Nuit des musées」。そんなものがあるのを、実は前日初めて知った。年に1度、ヨーロッパの主要な美術館、博物館が夜、無料開放される日とのこと。その日入ったオランジュリー美術館のことは項を改めるとして、一角獣のタピストリーで知られるクリュニー中世美術館ではジャズフェスプログラムとして夜9時からサックスコンサート(無料)を予定されていたので、オランジュリーのあとにバスで駆け付けたのだが、なんと、200㍍ほどの入館待ち行列ができていて、恐れをなして入場をあきらめた。フランス人も無料には弱いらしい。

 

オデオン座でジャズを聴く 

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 さて、22日夜のオデオン座でのコンサート。早朝からブルゴーニュにワイナリーツアーに行っての帰りで、ディジョン駅からのTGVが10分遅れの午後8時にリヨン駅に到着し、8時30分のコンサート開始には少々ギリギリだったが、タクシーがスムーズに走ってくれて、滑り込みセーフ。テロ警戒で手荷物検査をしていて、ブルゴーニュで買ったワインを妻と2人で6本持っていたところ、警備の人がフロントに預けよとかなんとか言って他の人に引き継いたが、混雑の中、よくわからないまま、ワインは持って座席へ。案内嬢はとても親切で、わけのわからない日本人夫婦を丁寧に席までガイドしてくれた。

バルコニー席が4階まであり、われわれの席は3階、仏語ではpremier balcon 。ホテルなどでは1階はゼロ階、2階がpremier etageだが、劇場のバルコニー席は2階をゼロ階と数えるらしい(ああややこし)。オデオン座は1789年のフランス革命の前に建てられ、パンテオンやマドレーヌ寺院と同様、柱が外に並ぶ新古典主義建築。コメディー・フランセーズの劇場でもあった。1968年のパリ五月革命時、指揮運営していたジャン・ルイ・バロー(映画「天井桟敷の人々」の主演者!)が、学生に占拠を許したかどでアンドレ・マルロー文化相に解任されたという話も残っている。いくたびか火災にもあったようで、歴史的にはなかなか波乱万丈の劇場のようです。寄り道ばかりですね。

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約1時間40分のコンサートは、歌も演奏も正直素晴らしかった。10数曲のうち、耳になじみのスタンダードナンバーは「ラブ・フォー・セール」「オール・オブ・ミー」「スターダスト」「キャラヴァン」など。ジャズを論評できる能力はないけれど、プロのジャズマンのかっこよさをつくづく感じた。ほぼ満員の聴衆は80歳超と思われる女性や老夫婦ら、少々歳を召された人が多かった。ジャズを聴く層の高齢化は世界共通なのでしょうね。

ジャズの似合うパリ

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 ジャズ発祥の地、ニューオーリンズはフランスの植民地ヌーヴェル・オルレアンであり、ジャズとフランスは深い縁があるようだ。とりわけサン・ジェルマン・デ・プレはヨーロッパジャズの聖地のようにも言われている。過去、ベラミという宿泊ホテルそばで食事に入ったジャズクラブChez Papaはとてもよかった。来日したこともあるという女性ボーカルと男性ピアニストのコンビネーション。ワイン蔵を思わせるような店は後日、歴史のあるクラブと知った。ベラミホテルのカフェには、ジョン・コルトレーンや      マイルス・デイヴィスらの写真が飾られている。戦前、戦後、アメリカの黒人ミュージシャンに演奏場所を提供したのがこの界隈らしい。人種の多様性への寛容さに関してパリは相当進んでいたのではないか、と思わせるこの地でのジャズ受容の歴史である。

                             

 HPによると、このジャズフェスは、Created in 2001 and located in the famous Saint-Germain-des-Prés area, heart of jazz in Europe, the Festival Jazz à Saint-Germain-des-Prés Paris is one of the great jazz event in Paris during Spring every yearだそうだ。