パリ95番バス

映画と本とアートと遊歩

ウエルベックの「滅ぼす」

これまで、観光とセックス産業とイスラムテロ(「プラットフォーム」)、現代美術とマネーと殺人(「地図と領土」)、フランスでのイスラム政権誕生(「服従」)など、現代社会の底流と病理をテーマにしたリアルな予言的小説で物議を醸してきたミシェル・ウエルベ…

二人の写真家の「読む時間」

昼寝するゾウに寄り添うようにして本を読む上半身裸の男。場所はタイのチェンマイ。 スティーヴ・マッカリーの写真集「読む時間」は表紙から目をくぎ付けにする。 クラシックカーのそばで新聞を広げるキューバの男。 アフガニスタンのカブールでは、古着が…

「黒い睡蓮」 たまにはミステリー

クロード・モネが後半生を送ったフランス・ノルマンディー地方の小村ジヴェルニーを舞台にした仏製ミステリーと聞けば、読まないわけにいかない。 睡蓮の池近くで村の眼科医の男が水死体で見つかる場面から始まり、3世代、3人の女性の話が並行して叙述され…

「細雪」と「ダウントン・アビー」ではなく、桐野夏生「デンジャラス」 

谷崎潤一郎の「細雪」がとてつもなく面白い小説である、ということに60歳を過ぎての初読で知った。芦屋市谷崎潤一郎記念館の元館長のT・Kさんに繰り返し薦められていたのに、文庫本で3.8㎝の厚さ(中公文庫)に腰が引けていた。映画も原作に誘う魅力はなかっ…

「世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史」(スティーブン・ジョンソン 朝日新聞出版)

因果関係のドラマが、目からウロコの面白さだった。 歴史の面白さは因果関係を知るところにあると思う。人、モノ、環境が何を変え、その結果どうなったか、に尽きる。受験のために歴史を丸暗記しても、興味が持てなかったのは、その面白さを知らなかったか…

佐藤正午「月の満ち欠け」

佐藤正午さんは、いつごろからか、新作の小説が出ると必ず読むという稀な作家になった。 前作「鳩の撃退法」は上下巻を読み終えるのが惜しいほどで、いつまでも作品世界に浸っていたいと思わせた。贋札か真券か曖昧模糊とした札束3000万円の詰まった鞄を預か…