パリ95番バス

映画と本とアートと遊歩

ウエルベックの「滅ぼす」

これまで、観光とセックス産業とイスラムテロ(「プラットフォーム」)、現代美術とマネーと殺人(「地図と領土」)、フランスでのイスラム政権誕生(「服従」)など、現代社会の底流と病理をテーマにしたリアルな予言的小説で物議を醸してきたミシェル・ウエルベ…

素晴らしきマティス展

東京都美術館で開かれているマティス展に行って来ました。 コロナ下で会えなかった関東の人々と旧交を温める合間、上野の森へ。 日本では20年ぶりの大回顧展で、パリのポンピドゥー・センターの所蔵品を中心に、初期から晩年までの変遷がわかる約150点。過去…

ルイ・ヴィトンのジャコメッテイ

「アルベルト・ジャコメッテイ」展が大阪心斎橋のエスパス・ルイ・ヴィトン大阪で開かれています。 最後の彫刻作品とされる「ロタールⅢ」(1965)など戦後に手掛けた代表的な彫刻7点を観ることができます。パリのアトリエの写真や貴重な記録映画の上映もありま…

太宰治の津軽

奥入瀬から青森駅を経由して鉄道で弘前駅に近づくにつれ、車窓からリンゴの木に鈴なりの赤い果実が目に飛び込んでくる。この季節ならではの風景。りんご王国・青森県、その中でも弘前市は年間18万㌧近い収穫量で、市町村で断トツ日本一。リンゴ1個300gとす…

星野リゾートの岡本太郎

青森の星野リゾート奥入瀬渓流ホテルには、岡本太郎の作品がある。 一つはエントランスを真っすぐ進んだ先のラウンジ「森の神話」の巨大な暖炉。 ブロンズ製で天井から吊り下げられ、縦長の梵鐘のようでもある。 渓流、樹々、人間、妖精、動物が一体になり、…

暗闇の中で

国民の過半数が反対した「国葬」の前日、京都の清水寺に参りました。東京方面からの修学旅行生や欧米らしき団体ツアーも多く、コロナ禍から立ち直りつつある京都、との印象でした。修復なった舞台屋根の桧皮ぶきが、きれいでした。真っ暗闇の胎内巡りを体験…

庭の薔薇

庭で育てて3年目のバラ、ピエール・ド・ロンサールが盛りを迎えています。たいして手を掛けなかったのに、よく咲いてくれて感謝です。花それぞれ、咲き方に個性があって面白い。 「星の王子さま」に出てくる、王子を手こずらせるバラに比べると、ずいぶん素…

阿蘇の思ひ出

壁に描かれたストリートアート。建物ともども少々色あせてはいるが。 ここはNYブルックリンか、ロンドン下町か。 巨大な椅子。アートと呼ぶにはためらわれる、ただ大きいだけの椅子。 これを見れば、日本とわかる、昭和レトロの店。 ここは熊本県阿蘇市の内…

由布岳とサント=ヴィクトワール山

大分県の湯布院にある由布岳を目にした時、何かに似ている、と思った。 なだらかな稜線に、少しへこんだような山頂。 ポール・セザンヌが生涯を懸けて描いたサント=ヴィクトワール山。 これは東京・アーチゾン美術館所蔵の油彩。 南仏エクサンプロヴァンス…

熊本、阿蘇へ

熊本地震の発生から6年の4月14日、熊本市と阿蘇を訪れました。 2回の震度7、死者276人、多数の家屋が被災し、阿蘇山の大規模地滑りでも犠牲者が出た。 市街電車が走る目抜通りの真っ正面に、熊本城が見える。素晴らしいロケーション。駆け足の旅人に街の地震…

戦争の本を二冊

本屋大賞に選ばれた「同志少女よ、敵を撃て」の著者、逢坂冬馬さんは受賞インタビューで笑顔を見せなかった。ロシアのウクライナへの蛮行に「絶望」しているが故に。印税の一部をウクライナのために寄付するという。えらい! 侵略戦争が始まったころ、独ソ戦…

ドライブ・マイ・カー

繰り返し観たくなる映画というのに近ごろ遭遇してませんでしたが、「ドライブ・マイ・カー」は、続けて観て、二度目が面白い映画でした。TVのAmazon primeのレンタル48時間のなせる技。無精して映画館に足を運ばず、すみません。 米アカデミー賞の作品賞など…

佐伯祐三の大阪中之島美術館

凶悪プーチン・ロシアのウクライナ軍事侵攻、殺戮、破壊、ウクライナの人々の抵抗と避難のニュースに毎日見いり、何とかならんものか、と思う日々、のほほんとアート鑑賞していいのかとは思いつつ、大阪中之島美術館に行きました。2月開館し、コロナ下の平日…

藤原新也さんの眼

自然免疫の代替でしかない新型コロナのワクチン接種は受けない、と「外道」の藤原さんは言う。 「小市民」の当方はすでに2回の接種を終え、小安心している。 写真家・作家藤原新也さんへの聞き書き記事「風景を人を 変えてしまう五輪」が朝日新聞朝刊(6月…

アーティゾン美術館、ミュージアムの進化形

東京・京橋のアーティゾン美術館を訪れた。前身のブリヂストン美術館から装いを一新、今年1月に開館したが、新型コロナウイルスのため二度休館、6月23日から再開した。23階建て高層ビルの4-6階に展示室があり、入館者は6階へ上がって、降りていく順路…

エンニオ・モリコーネの訃報

イタリアの映画音楽作曲家エンニオ・モリコーネが亡くなりました。新聞朝刊の訃報記事の見出しで、読売新聞は「荒野の用心棒」、朝日新聞は「ニュー・シネマ・パラダイス」を取ってました。 私的には、モリコーネといえば、中学生の時に見て衝撃を受けた「荒…

二度目の倫敦⑩ノッティング・ヒル、アビーロード、テート・モダン

ロンドン最終日、夜の出発までの時間をフルに使う。 まず行ったのは、映画「ノッティングヒルの恋人」の舞台になったノッティングヒルのポートベロー。ジュリア・ロバーツ、ヒュー・グラントが主演し1999年に製作されたこのイギリス映画で、界隈は一躍人気ス…

二度目の倫敦⑨バッキンガム宮殿から大英博物館

旅行5日目。エリザベス女王が住むバッキンガム宮殿は、宿泊ホテルから歩いて5分ほどなので、名物の衛兵交代式を23年ぶりに再見しようかと、午前10時ごろ、宮殿へ。しかし晴れ過ぎて寒い。 1703年にバッキンガム公の私邸として建てられ、1837年にヴィ…

二度目の倫敦⑧コッツウォルズ、オックスフォードツアー

4日目の日曜日、ロンドンに来てから妻のリクエストで予約したコッツウォルズとオックスフォードの日帰りツアーに出かけた。 午前9時15分、ホテルからバス停で2つのヴィクトリア駅に集合。感じのいい若い男性のガイド兼運転手にツアー客12人。私たちを含む…

二度目の倫敦⑦ウエストミンスターからテムズ川クルーズへ

3日目、ウエストミンスター寺院へ。11世紀に現在のスケール、13世紀にゴシック様式になり、18世紀に2本の塔ができたとか。 シュッとしてはる、と思う。 歴代王の戴冠式のほか、ロイヤル・ウエディングも行われてきた。現在のエリザベス女王とフィリップ殿下…

二度目の倫敦⑥バンクシーからホームズへ

ナショナル・ギャラリーで額縁に収まった過去の絵画を見たあと、覆面ストリートアーティスト、バンクシーの作品を見に行った。 場所はオックスフォード・ストリートの繁華街から公園ハイド・パークに通じるマーブル・アーチ横の壁。 2019年4月、環境保護団…

半世紀後の「男と女」とボリス・ヴィアン

クロード・ルルーシュ監督の映画「男と女 人生最良の日々」を見ました。あれから53年、アヌーク・エーメはやや太りながらも美貌を留めていましたが、ジャン・ルイ・トランティニャンは特殊メークかと思う老け方、映画館の周りの鑑賞者も平均年齢70歳前後(つ…

二度目の倫敦⑤ナショナル・ギャラリー1700年以降

ナショナル・ギャラリーで18世紀絵画は印象に乏しい。超おおざっぱな美術史知識で考えても、15世紀から17世紀はルネッサンス、バロック、オランダ絵画があるけれど、そのあと19世紀のロマン主義、印象派に飛んでしまう。 ただし、イギリス美術界では、18世紀…

二度目の倫敦④ナショナルギャラリー1600年~1700年

ナショナル・ギャラリーは1824年に創立された。18世紀から19世紀にかけ、フィレンツェ、ウィーン、パリ、マドリードなど、ヨーロッパの主要都市に次々と美術館が誕生した。ロンドンには大英博物館はあったものの、絵画の美術館としては後発となる。 他館が…

二度目の倫敦③ナショナル・ギャラリー1200年~1600年

昼過ぎ、トラファルガー広場に戻り、セント・マーティン・イン・ザ・フィールド教会(写真下)のランチコンサートへ。礼拝堂で平日ほぼ毎日開かれる1時間ほどの無料演奏会で、この日は韓国系の若い男性ピアニスト。音楽雑誌で成長株のピアニストとして取り…

パリの日本人三つ星レストラン

小林圭さんがオーナーシェフを務めるパリのレストラン KEI が、2020年度のミシュランガイド仏版で三つ星を獲得しました。フランスで日本人シェフの三つ星は初めてだそうです。 どちらかといえば、ミシュランなんぼのもんや派ですが、このレストランは別です…

二度目の倫敦②トラファルガー広場からボンドストリート

ロンドン2日目の朝。ホテルの中庭へ出る。電飾の噴水があり、ゴージャス感の中にアジア的テイスト。 磨き上げられたロビーの床。レセプションの女性はインド系が多いようだ。 レセプション背景の絵はお馴染み近衛兵とインドの少女? 作家サマセット・モーム…

二度目の倫敦①パディントン経由セント・ジェームズ

若い係官が私のパスポートを見ながら訊ねてきた。 「ビジネス?それともトラベル」 「トラベル」 「ロンドンのホテルは?」 「決まっていない」 ここまではいつもの質問だ。しかし、次の質問を受けたとき、不吉な予感がした。 「帰りのチケットは?」 「い…

ルーヴル美術館㊦ニケ、レオナルド、そしてピラミッド

ルーヴル美術館のドゥノン翼、彫刻が並ぶ廊下の突き当たりの階段上に、人だかりに囲まれて「サモトラケのニケ」が優雅にたたずんでいる。 1863年、エーゲ海にあるギリシャ・サモトラケ島の考古学調査で、腰、胴、羽根がバラバラの状態で見つかった。頭、腕は…

ルーヴル美術館㊥ドラクロワ、ロベール、ラ・トゥール

この絵は誰の絵か? ウジェーヌ・ドラクロワ(1798-1863)の「ディエップの高台からの海景」(1852)。 印象派が描いたような風景。ドラマティックで色彩が躍る絵を描き続けた19世紀フランス・ロマン主義の画家の54歳の作品というから、少し驚く。こんな淡泊…