パリ95番バス

映画と本とアートと遊歩

ニューヨークの秋(5日目) MoMAからストランド・ブックストアへ

f:id:LOUVRE:20171207133120j:plain

ピカソ「三人の音楽家」)

アートの街、街のアート 

ニューヨーク近代美術館(MoMA)の開館は午前10時30分。ホテルの1ブロック東にあり、開館まで周辺をぶらぶらする。前日と違って、ビジネスパーソン風の人たちの足早の往来が多い。車もつんのめるように走っている。

そんなあわただしい月曜の朝でも、六番街の交差点にある街角オブジェの赤い「LOVE」は、記念撮影するファミリーやカップルが後を絶たない。ロバート・インディアナさん作のパブリック・アートで、元はMoMAのクリスマスカードの図案だった。今では世界のあちこちに置かれているらしい。同じ作者の「HOPE」は七番街にある。こちらは国際希望デー(そういうものがあるのですね)に合わせて設置されたとか。単純でわかりやすいメッセージがアメリカン。これに限らず、この界隈にはオブジェ、彫刻が点在する。アートの街NY。

f:id:LOUVRE:20171207133228j:plain

f:id:LOUVRE:20171207134321j:plain

MoMAのコレクションは、20世紀のモダンアート、デザイン、写真、映画を核にして19世紀中ごろから現代に至るアート全般だが、NYが世界のアートの中心であり、最先端であり続けるために、芸術にかかわる一切を取り込んで行こうという意思が感じられる。

戦争とアート

ピカソの「アヴィニョンの娘たち」、マチスの「青い窓」、ゴッホの「星月夜」、モンドリアンの「ブロードウェイ・ブギ・ウギ」など、MoMAが「最も重要な所蔵品」とする作品の多くは、第二次世界大戦中と戦後に収集された、とガイド本「MoMA Highlights」にある。ナチスが退廃芸術として売却し、あるいはコレクターや画家が米国に移住し、戦後経済の絶好調のなかで、こうした画期的作品が集まった。

f:id:LOUVRE:20171207134418j:plain

ピカソアヴィニョンの娘たち」)

f:id:LOUVRE:20171207134457j:plain

マティス「ピアノレッスン」)

f:id:LOUVRE:20171207134618j:plain

マティス「ダンス」)

f:id:LOUVRE:20171207134526j:plain

ゴッホ「星月夜」)

f:id:LOUVRE:20171207135837j:plain

ゴッホはどこでも人気が高い) 

アンリ・ルソー、モネ、セザンヌドガなどメトロポリタン・ミュージアムにもあった作家の作品もここには展示されている。好きなシュルレアリスムルネ・マグリットイヴ・タンギーフィルム・ノワールの一場面を切り取ったかのような孤独なアメリカを描き続けたエドワード・ホッパー、以前日本での展覧会で知ってファンになったアンドリュー・ワイエスもある。その辺りについ当方の関心が行って、ポップアートコンセプチュアルアート、同時代のアートに目が届かない。あとでガイド本を見て、ああこの作品、あの作品もここにあったのか、見逃した、ということになる。

f:id:LOUVRE:20171207134701j:plain

アンリ・ルソー「夢」f:id:LOUVRE:20171207134734j:plain

アンリ・ルソー「眠れるジプシー」)

f:id:LOUVRE:20171207134806j:plain

セザンヌ「果物皿のある静物」)

f:id:LOUVRE:20171207134844j:plain

ルネ・マグリット「恋人たち」)

f:id:LOUVRE:20171207134912j:plain

イヴ・タンギー「ママとパパがけがをした!」

f:id:LOUVRE:20171207135241j:plain

エドワード・ホッパー「ガス」)

f:id:LOUVRE:20171207135934j:plain

アンドリュー・ワイエス「クリスチーナの世界」)

パリで20世紀から現代のアートといえばポンピドーセンター。工場のような外観はあまり好きになれないが、ピカソカンディンスキーマティス、ブラック、ダリ、ジャコメッティデュシャン、イブ・クラインらに加え、ブラッサイブレッソン、マンレイらの写真もあって、MoMAと似た品ぞろえの中身はなかなかのもの。しかもそれらが壁や柱に無造作に展示されている感じで、初めて行ったとき驚いた。何よりシュルレアリスムの総帥、アンドレ・ブルトンの遺品の部屋には感動した。しかし、立地から言っても、現代アートと親密なNYの性格からいっても、街でのMoMAの存在感はポンピドーを上回る。パリはまだセーヌ川沿いの三つの美術館がアートの中心で、ポンピドーははずれている。

f:id:LOUVRE:20171207140031j:plain

教材はエルンスト! 

マックス・エルンスト(1891―1976)の特別展が開かれていた。大学時代に一時はまった懐かしいシュルレアリスト。「百頭女」などの作品で知られるドイツ人で第二次大戦中にパリからニューヨークに亡命し、ナチスから逃れてきたアンドレ・ブルトンらとこの街で活動した。ダリも大戦中はニューヨークにいた。アメリカの20世紀芸術に最も影響を与えたのは、マルセル・デュシャンとされていて、男性用小便器に「泉」の名を付けたレディメイド(既製品をアートにしてしまう)作品が展覧会に出展拒否されてから今年が100年、ということで先日も朝日新聞にその今日的意味というような記事が載るほどだが、エルンストら亡命シュルレアリストたちが、NY美術に与えた影響もいろいろあるに違いない。

特別展の会場で子供たちが床に座って何か絵を描いている。物の上に紙を置き、鉛筆でこすって物の表面の模様、凹凸を浮き上がらせるフロッタージュにトライしていたのだった。エルンストがよく用いたこの技法、子供のころ五円玉とか硬貨の模様を映して遊んだことを思い出す。学校の授業なのだろうか。エルンストの幻想的な作品に囲まれての授業は素敵です。

f:id:LOUVRE:20171207140118j:plain

(エルンスト「ニンフ・エコー」)

f:id:LOUVRE:20171207140150j:plain

(フロッタージュで絵を描く教室)

f:id:LOUVRE:20171207140226j:plain

(エルンストの「女と年老いた男と花」)

ミュージアムショップが好きだ。美術に関する本がいっぱいあって、たぶん一日いても飽きないだろう。ここでは所蔵品350点を紹介した「MoMA Highlights」2013年版と、ピカソの油絵「三人の音楽家」(1921年)(冒頭のP)の大判ポスターを買った。ガイド本に掲載された日本の作家の作品は、映画の「東京物語」と「羅生門」、草間弥生さんの「No.F.」、横尾忠則さんの「日本音楽著作権協会」のポスターでした。

美術館を後にして、五番街を歩いて北上、ヘンリ・ベンデル、バーグドルフ・グッドマン、マディソン街のバーニーズ・ニューヨーク、さらにレキシントン街のブルーミング・ディールズとデパート4軒をはしごして少し買い物。

f:id:LOUVRE:20171207143027j:plain

f:id:LOUVRE:20171207143000j:plain

(バーグドルフ・グッドマン)

メトロでユニオン・スクエアへ。公園の前でグリーン・マーケットが開かれている。通りの南には大きなスーパーがいくつもあって、ミッドタウンに比べ庶民的な感じ。日本で人気らしいエコバッグとクーラーボックスを買うためにトレーダー・ジョーズという店に入る。レジの仕組みは店によって違うようで、ここは、とにかく一列に並ぶ。店内をぐるりと一周しかねない程の長い列ができていたが、レジ自体は多数あり、従業員の女性が先頭の客に「はい、あのレジに行って」と指示を出して、どんどんさばいて行き、案外進みが早い。日本のスーパーのように、どのレジ列に並ぶか悩む必要がなくて合理的。ユニクロは一列方式でしたね。

目当ての品は特定のレジ後ろに置かれていたため、こちらの順番になり、「レジバッグが」と言いかけると、わかったという表情で、「あのレジ」へと指示される。レジの黒人女性は「どれとどれにする?」と慣れた感じで、聞けば、日本人がよく買いに来るという。女性は「私はハロー・キティのファンよ」とスマホにつけたキティちゃんのアクセサリーを見せてくれた。思わぬところに親日家。

食材の店、ホールフーズマーケットにも入ったが、こちらはレジの前にゲートと何列ものレーンがあり、どれかに並ぶとレジの番号が点灯して、そこに行く仕組みになっている。ということがわかったのは、ボーと並んでいて、隣のレーンのおばさんが「あの番号のレジに行きなさい」と教えてくれたからで、スーパーの並び方について今日はいろいろ勉強になる。といっても旅はもう終わりかけだけど。

f:id:LOUVRE:20171207143129j:plain

 (ユニオンスクエア)

街の大きな本屋さん 

ユニオン・スクエアにストランド・ブックストアがある。1927年開業のNYでも有名な書店らしい。新刊書と古本の両方を置いている。パルプマガジンというのか、古いペーパーバックスも多数。映画の本に至っては新刊か古本か新古書かわからない本がいくつもの棚にぎっしり並び、さすがにハリウッド映画の国だと思った。監督名、俳優名ごとに並んでいるようだったが、圧倒されて精査に及ばず。結局買ったのは、映画とは関係のない「NEW YORK THEN AND NOW」という今昔写真集1冊だけだった。アマゾンの宅配とか、デジタルとかで、街の書店、紙の本は大変なのだろうけど、この書店は活気があった。またゆっくり来させていただきたい。

f:id:LOUVRE:20171207140328j:plain

(ストランド・ブックストア)

夕暮れになり、メトロでグランド・セントラル駅を見物して戻ることにした。メトロのラッシュアワーにぶつかり、押し合いへし合いの車両へ夫婦が体をねじ込んだ。日本でもしばらく経験していないラッシュをまさかNYでとは。グランド・セントラル駅は噂にたがわず、星座の天井がきれいな駅だった。

f:id:LOUVRE:20171207140407j:plain

(グランド・セントラル・ステーション)

夕食はタイムズ・スクエア近くのプラネット・ハリウッドでビールにハンバーガー。というのも、フリースタイル・パスで予定していたホイッスラー美術館に行かなかったため、1枚余り、食事のクーポンとして使えるこの店に足を運んだのだった。映画の世界かアメコミの世界か、外見も内装もケバいアメリカを体現したような店だったが、ハンバーガーはおいしかった。

f:id:LOUVRE:20171207140859j:plain

(プラネット・ハリウッド)

f:id:LOUVRE:20171207140945j:plain

(中はこの様にサイケ)

f:id:LOUVRE:20171207141024j:plain

(1950年代テイストか)

NY市警 

旅の終りにタイムズ・スクエアのにぎわいをもう一度見る。制服の警察官が何人か銃を持って警備している。通りかかった少年が警官に「サンキュー」と声をかけた。いつも僕らを守ってくれて、という感じだろうか。ニューヨーク市警は人気があるようだ。土産物屋にも空港売店にも、「NYPD(ニューヨークシティ・ポリスデパートメント」のロゴの入ったいろんなグッズが売っている。大阪府警のグッズはあまり聞いたことがないけどね。警察官にありがとうと声をかける小学生も見た記憶がないが、とても大事な仕事であることは東も西も変わらないので、日本での市民と警察の関係をまたウォッチングしてみよう。近頃はDJポリスのような人気者もいるし。

f:id:LOUVRE:20171207141328j:plain

( いつもにぎやか、タイムズ・スクエア) 

f:id:LOUVRE:20171207141239j:plain

(警察官が警戒)

f:id:LOUVRE:20171207141136j:plain

スパイダーマンとか、トイストーリーとか、ミニオンズとか、自由の女神とか。いろいろ乱入してくるので、警察も大変だ)