パリ95番バス

映画と本とアートと遊歩

「世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史」(スティーブン・ジョンソン 朝日新聞出版)

 

因果関係のドラマが、目からウロコの面白さだった。

歴史の面白さは因果関係を知るところにあると思う。人、モノ、環境が何を変え、その結果どうなったか、に尽きる。受験のために歴史を丸暗記しても、興味が持てなかったのは、その面白さを知らなかったからではないかと、手遅れながら思う。

人生も終盤に近付くと、ゴーギャンの絵のタイトルのように「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」と自問し、ヒマまでできてしまうので、今の世界の来歴を詳しく知りたくなる。とはいえ、ビッグバンから読み始めると、なかなか地球が誕生しないし、地球46億年の歴史でもバクテリアとかミトコンドリア時代は飛ばして人類に早くたどり着きたい。物理には弱いので、最初につまずいてしまうことになる。評判の「サピエンス全史」ぐらいが、ちょうどいいのかもしれないが、それさえまどろっこしいという場合、人間の画期的な6項目の発明に絞った本書が、モノから見た歴史のダイナミズムをスピーディに教えてくれる。

因果関係といえば、風が吹けば桶屋が儲かる、タイムトラベルのバタフライ効果。もしもあの時とか歴史の改変に、強く魅かれる。あり得たかもしれないもう一つの人生、もう一つの世界。SFのテーマであるけれど、そんな仮想の話ではなくて、リアルな歴史が十分にスリリングで面白いことが、この本でわかる。バタフライ効果ならぬハチドリ効果とかロングズームという用語もでてくるが、気にせず、イノベーションの劇的展開に没頭しよう。

6項目はガラス、冷たさ、音、清潔、時間、光。内容を詳細に紹介すると、ネタバレ的になるが、さわりを少し。

 

「ガラス」

12,3世紀に北イタリアのガラス職人が眼鏡を作った。利用は修道士の学者に限られていたが、グーテンベルクの印刷術の発明(1440年代)で識字率が上昇し、これに伴って、大勢の人が自分は遠視であると気づき、眼鏡の需要が急増した。そこから顕微鏡、望遠鏡が生まれ、顕微鏡は細菌の発見、生命の革命へとつながる。

 

「冷たさ」

冷却のイノベーションは、アメリカ地図を塗り替えた。アメリカ南部のうだるような暑さが冷房、冷たいものへの需要を生み、装置の発展につながった。ヨーロッパでは冷房への需要がそれほどなかった。1940~1980年に、エアコンによって住みやすくなった米国南部への人口移動が起き、大統領選にまで影響するようになった。これは地球規模で起きていることのリハーサルだった。世界で急成長している都市(バンコクジャカルタ、カラチ、ドバイ、リオデジャネイロ…)のほとんどは熱帯気候にある。

 

「音」

電話は1900年代、高層ビルの建設にエレベーターと同じくらい影響を与えた。電話は上下階のオフィスの距離を縮めた。電話交換機は女性が初めて「専門職」階級に入り込むきっかけになった。「Hello」という挨拶言葉は、電話の普及とともに広がった。ラジオで、ルイ・アームストロングらの音楽が流れたことで、それまでニューオーリンズやニューヨーク、シカゴのアフリカ系アメリカ人居住区に限定されていたジャズが、全国的に流行する現象が起きた。公民権運動の誕生は、全米へのジャズ音楽の広がりと密接に関係している。真空管アンプのおかげで、大勢の群衆に話したり、歌ったりすることができるようになり、大衆を前にした演説が世界の政治状況を左右することにもつながった。

 

 イノベーションを起こすためには何が必要かといったビジネス教訓を求めず、「発明する人間」の面白さをひたすら楽しむ本だと思います。